緊急事態宣言下コミュニケーションの行動経済学的分析

2度目の緊急事態宣言が首都圏(1都3県)に発出された。そんな中、御殿場市が首都圏から市内飲食店への来店を控えてもらうため「一見さんお断り」の啓発看板も作製して、任意で店頭に掲示してもらうという。


ここでこの行為に対して良いか悪いかを評価するつもりは全くない。しかし、少なからず多くの人びとが「悪い印象」を持ってしまったと思う。これを実行する前におそらく多くの議論を重ねたと思うし、苦渋の決断であることも察する。そのこと自体を決して否定するつもりはない。


しかし、ここで問いたいのは伝え方である。著者が御殿場市のつくったポスターをもとに別の伝う方で自分なりに作ってみた(下図)。皆さんはどのように思うだろうか。

前者も後者も実は「同じ文言」である。違いは、強調した文字の違いだけである。大学の授業内でアンケートを取ったところ、圧倒的に前者と後者では心象の相違が見られた。前者は「来ないでほしい」と認識され、後者は「いつか行きたい」と認識される。同じことなのにどうして人間は異なる認識を持ってしまうのか。


そうした疑問に答えるのが行動経済学のナッジ理論だ。人間は一時の感情に左右されたり、心理的バイアスで非合理の意思決定をしてしまう生物であるという前提で、人間の経済行動を解き明かすのが行動経済学。ナッジとは、「肘で軽くつつく」という意味で、「ちょっと注意を引く」というイメージで、何かを強制したりそれしか選べないようにするのではなく、相手の自由を残しつつ、特定の選択や行動に誘導する仕組みやデザインのこと。


例えば、あたなはどちらの医者の手術を選ぶだろうか。

A.10%の確率で死亡します。

B.90%の確率で成功します。


AもBも実は同じ成功率・失敗率である。それなのに多くの人びとはAの医者を選ばずBの医者を選ぶ。合理的な意思決定ができるならAでもBでも構わないはずなのに、多くの人びとはBを選ぶ。それは人間が心理的バイアスに左右される意思決定を行っているから。このように伝え方よって人間の判断が変わってしまう現象を「フレーミングの法則」と呼ぶ。視点を変える、枠組みを変える、物は言いようということ。


このフレーミング効果は、観光地のプロモーションにも活用できる。

× 知名度が低い   ⇒ 〇知る人ぞ知る

× 誰も知らない宿  ⇒ 隠れ家の宿

× 交通の不便な温泉 ⇒ 秘境の温泉

× 古い街並み    ⇒ レトロな街並み

× テレビがない宿  ⇒ 潮騒のある宿

× 携帯電波が通じない⇒ 自然にトケコム

× 灯がなく暗い街  ⇒ 星がきれいに見える街


物事はこのように二面性をもっているため、陰陽のどちらを強調するかで同じことを伝えていても情報を受け取り方は全く異なる。


知人のハワイ州観光局長が言っていた。たとえ、ロックダウン下でも「マハロ(ありがとう)の精神」は忘れてはならないと。観光客の心を逆なでするか、はたまた虜にするか、実はこの緊急事態宣言下で地域側の力量が問われているような気がするのは私だけだろうか。

(以上)

鮫島卓研究室 SAMETAKU-LAB

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