過疎地域における観光と地方創生

大学の担当科目である「観光政策論」で、過疎地域の問題と観光まちづくりの先進事例とその共通点について講義を行った。今日はその一部分を紹介したい。

都会暮らしの学生たちにとって、日本の過疎地域は別世界のようである。こんな深刻な問題であるとは思ってもいなかったとするコメントも多い。

そもそも過疎地域とは、著しい人口減少に伴って生産・生活基盤の維持が低下していく地域のことであり、主に中山間地域・山村・離島など条件不利地域に多い特徴がある。今や日本は人口減少社会であり、一部を除けば既に人口減少局面にあり、人口面からのダウンサイジングは仕方のないことかもしれない。過疎の問題は、単に減ることの問題ではなく、著しい人口減少による社会問題のことである。


離島を除けば、日本一人口が少ない高知県大川村では、村議会議員のなりて不足が慢性化し、村議会を廃止して村民直接参加の村総会を設置する検討を始めた。また日本創生会議の増田レポートで、2040年時点で1万人を切る523自治体は消滅の可能性が高いとする「消滅可能性都市」として問題提起され、賛否両論はあるものの大きな議論を巻き起こした。


こうした過疎地域の社会問題の具体例は、急激な人口減少に伴う空き家・廃屋・荒廃地の急増など土地利用の問題、市町村合併による学校・病院・公共施設等の統廃合や集約化による行政サービスの格差拡大、公共交通機関の撤退による交通格差が顕在化、少子高齢化による生産人口の減少により行政の財政基盤が大きく揺らぐことである。


人口は、出生と死亡の差である自然増減と転入と転出の差である社会増減の2つに側面がある。自然増減については出生率の向上策、社会増減については働く場や教育機会などが大きく影響している。過疎地域は、日本の未来の先を行くという意味で、先進的過疎と言われることもある。


観光による交流人口によって定住人口の減少分の経済効果を補うものとして、観光は地方創生の切り札として注目を集めているのだ。しかし、言うは易し、行うは難しであるなかで、人口の増減ではなく新たな指標で活性化を図っている地域がある。


授業では先進事例として、①海士町(島根県隠岐諸島)、②秋津野(和歌山県田辺市)、③神山町(徳島県)、④飛騨古川(岐阜県)を取り上げた。

①海士町は、「ないものはない」とするスローガンで「無くてもよい」「生きていくうえで大切なことはすべてある」という過疎の可能性に目を向けて、島の海産物の冷凍システムの導入・ブランド牛・観光産業など地産外商策を行った。また高校魅力化プログラム「島留学」として島外から高校生を受け入れ廃校寸前の高校を復活させるなど、Iターン者を積極的に主役にして取り組みを行った。

②秋津野では、Uターン者が主導役となり地域の農家らが出資によって設立された農業法人秋津野ガルデンが廃校した小学校跡地をリノベーションして、宿泊施設・農家レストラン・体験施設を備えたグリーンツーリズム施設を開業して、6次産業化を推進した。

③神山町では、UターンのNPOグリーンバレーが中心となって創造的過疎をコンセプトとして過疎を不可避の現実と受け止め、場所を選ばないIT企業のサテライトオフィスを設置して若者やクリエイティブ人材を誘致することで、数ではなく生産人口を増やす内容ある活性化を図った。働き手が増えたことで、ビストロ・カフェ・靴屋・ゲストハウスなどサービス産業も喚起され、それら食材調達として地域農業にも波及した。空き店舗の商店街の解消にもつながった。

④飛騨古川では、Iターン者によって設立された民間企業の美ら地球(ちゅらぼし)が、「クールな田舎をプロデユースする」をコンセプトに、サイクリングツアー「SATOYAMA EXPERIENCE」、豆腐づくりなど里山の食文化に触れる「里山ダイニング」や伝統的な古民家に滞在できる「ロングステイ」などの体験サービスを提供し、欧米人を中心にインバウンドによる活性化を図っている。


今回取り上げた4つの事例に共通している点をまとめると、まず第1にアクターとしてIターン者・Uターン者などよそ者によるスモールビジネスの創業によって新たな事業創出が行われている点である。行政の関与は補助金などで側面支援をしているが、行政が主役ではない。あくまで民間事業として起業している点である。

2点目は、いずれも地産外商モデル、つまり地域外からの外貨を稼ぐ移出型産業を創出している点である。また地域内のサプライチェーンを長い時間をかけて構築している。観光はまさに見えざる輸出産業である。

3点目は、課題解決のために新たな人工物をつくるのではなく、既にある地域の自然・文化・歴史など地域資源に新たな意味を与えて再編集する地域デザインが行われていることである。地域デザインとは地域に新たな意味を与えるものであるとすれば、「ないものはない」「ビジネスより地域課題のソーシャルビジネス」「創造的過疎」「クールな田舎をプロデュース」など明確なコンセプトを掲げていることも大切な共通点である。


近年様々な移住促進が自治体主導で行われているが、大切なのはスモールビジネスの起業創出を誘致策に取り込むことだ。人がいない、カネがない、モノがないのはどこも同じだ。であれば、まず取り組むべきは、他の地域よりもちょっとだけ秀でていることを一歩一歩磨いていくことであり、地元住民では見えていないものに新たな視点から新たな価値を創出する地域の文脈に即した小さな起業を増やすことだ。行政は自ら主役になるのではなく、よそ者・ばか者・若者にチャンスを与えることで地域に変化を促すべきである。変人とは変な人でなく、変化を起こす人である。とにかく変人を応援することに尽きる。これまでのまちづくりのよう工場誘致など大きなものでなくてもよい。ふるさと納税で、地域産品とは全く関係のない返礼品が問題となっているのも、地域に如何に産業がないか、企業がないか、雇用がないかの証でもあろう。


授業では、都市の農村の関係性についても議論した。原発事故を起こした福島第一原発で発電された電気の消費者は、福島県民でなく首都圏住民である。都市部で消費される農産物・海産物の多くも、農村・漁村での供給によって成り立っている。お客である都市が上で、買ってもらっている農村部が下という関係ではない。東日本大震災時の計画停電や社会インフラのストップによって、都市部の生活基盤が農村部の供給によって支えられていることを多くの人が実感したはずだ。その意味では、過疎地域の問題は、決して切り捨てて良い問題ではない。


過疎地域では、深刻な社会問題が顕在化する一方で、上記のような持続可能性のある取り組みがあることは希望が持てる。これら地域では、住民のシビックプライドも強く、広い視野で当事者意識のある住民が活躍していることも大きな特徴である。また、過疎地域は、都会とは全く異なる価値観の下でヒューマンスケールのライフスタイルがある。都会のようにひとりひとりの存在が大河の一滴ではなく、人口が少ないからこそひとりひとりの存在感が大きいのも特長だ。そうした魅力を武器にスモールビジネスの企業誘致・創業誘致を後押しして、都市と農村がwin-winの関係を築くことが過疎問題の急がば回れの本質的な解決策であろう。行政主導の単年度主義の地方創生は決して持続可能性はない。民間事業の創出こそ持続可能性がある。



人口減少・過疎は避けられない。高度経済成長期の人口最盛期を目指すのは非現実的だ。ダウンサイジングと集積・集約化も避けられない。その文脈での行政の役割は明快だ。それは、Uターン・Iターンなどよそ者・ばか者・若者をアクターとして地産外商のスモールビジネスの起業支援とその集積化を促すこと、それらが相乗効果が出るような都市計画の再編や規制緩和を促してイノベーションをより創発させることである。あえて失敗も許容しよう。何も税金をじゃぶじゃぶ使うことだけではない。100年先を見越して観光をまちの総合政策へと位置付け、コンパクトシティへと再編・集積化できる町はチャンスが広がるであろう。

(以上)

鮫島卓研究室 SAMETAKU-LAB

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