都内海外旅行「東京ジャーミィ」イスラム世界を学ぶ

さて、この写真はどこだと思いますか。これは、東京の代々木上原にある日本最大のモスク「東京ジャーミィ」。在日のムスリムのほか、最近はインドネシア・マレーシアなど東南アジアから来た外国人観光客も礼拝のために訪れる機会も多い。実はイスラム教徒だけでなく、日本人でも自由に入って見学することができる。

代々木上原駅から井之頭通り沿いに歩いて約5分、突如現れる不思議な建物と天に貫く斜塔(ミナレット)が目印だ。聞くとロシア革命で難民となった現在のタタールスタン共和国のトルコ系タタール人が日本までやってきて建てたのがきっかけだそうで、この夏にロシア・タタールスタンを訪れたばかりだったので、思わぬ偶然に親近感を持った。

「とても美しいこのモスクの建材のほとんどがトルコから持ってきた本物です」と語るのは、トルコ政府の支援によって運営されているトルコ文化センター・東京ジャーミィで広報担当を務める下山さん。毎週土日の14:30から約1時間程度で、下山さんによるガイドツアーが行われる。しかも無料・予約不要である。中央エントランスで待つ間にトルコのチャイ、中東の名物デーツを頂ける。

イスラム教に対する誤解を解きたいという下山さんの熱意がつまった解説は、異文化理解にはとてもよい課外授業になる。イスラム教の聖典『コーラン』とは、「ムスリムにとって、人生という旅のガイドブックなのです。」とわかりやすく解説してくれた。

このモスクの2階に礼拝堂があり、靴を脱いで入る。女性はスカーフを頭にかぶる必要がる。スカーフの貸し出しもある。

このツアーのメインイベントは、礼拝の見学である。多くの日本人観光客(おそらく100名くらい)が訪れており、その盛況ぶりに驚いた。中に入ると、ちょうど礼拝中だった。「礼拝とは、心の食事です。ご飯を食べて身体の健康を維持するように、礼拝とは心の健康を保つものなのです。」と1日5回の礼拝の意味を知ると、信じるかどうかはともかくとしても、忙しい日本人こそこのような時間をつくることは大切であるように思えた。

そのほか、イスラム教には「ラマダン」という断食の習慣がある。「なぜわざわざ断食をするのかといえば、それは欲望に耐える忍耐と食べ物へ感謝を忘れないためであるのです。断食明けの食事ほど美味しいものはない」と下山さん。「礼拝は隣同士肩を寄せ合ってお祈りをする。その際に異性が隣にいると、気になってしまって神にまっすぐに心を向けることは難しい。」と礼拝時に男女が分かれる理由を語ってくれた。

また、ムスリムの女性が被るスカーフ(ブルカ)などは、「個人のアイデンティティと誇りを象徴するものです。あなたは自分の誇りを表現する服を持っていますか。」という問いに、単なるファッションでなく心を表現する服の意味について考えさせられた。

礼拝中を除けば、礼拝堂の内部は自由に写真撮影ができる。ステンドグラスと幾何学模様がとても美しいデザイン。本当にここは東京だろうか。どこかイスラム世界へ舞い込んだような錯覚に陥る。「女性だけは2階から礼拝堂を眺めることができます。とてもいい眺めでしょう。男性の皆さんはご免なさい」と下山さん。

モスクの1階には、ハラールフード(イスラム教の規律を守った食べ物)のほか、お土産まで販売されている。「ムスリムは、豚肉を食べないということはよく知られていますが、日本人も江戸時代までは表立って肉を食べる習慣はなかったことはご存じですか。だから『ぼたん』『さくら』など隠語として肉の呼称を使ってきたという意味では、日本人にも理解して頂けると思っています。」という下山さんの解説は、イスラム教の習慣と日本の習慣を対比させながら、比較文化論としてとても勉強になる。

東京は、様々な文化の人が暮らす多文化共生社会になりつつある。海外に行く前にまずは身近なところで世界を知るというのも悪くない。

(以上)

鮫島卓研究室 SAMETAKU-LAB

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