観光資源だけでは経済効果を生まない?!

観光は本当に経済効果があるのか?

2019年8月4日付日経新聞の記事「訪日客は西へ、消費は東で 3人に1人は大阪・中央区へ」をご覧になった方も多いと思う。記事では、「空前のインバウンド(訪日外国人)ブームに沸く日本列島。政府統計では見えない市区町村別の訪問数や消費額をひもとくと、訪日客は東西に分散する一方、消費は東京に一極集中しているいびつな構図が浮かぶ。」とし、「客数が伸びても消費が伴わなければ地域は潤わない」としている。


もともと、訪日外国人増加策が国の重要政策になったのも、少子高齢化や人口減少の中で新たな活性化の起爆剤としてその経済効果が期待されたからである。しかし、観光客が増えるだけでは経済効果は生まないことをそろそろ認識すべきである。


観光資源と観光商品の違い

最も重要なことは、「観光資源だけは経済効果を生まない」ことである。京都祇園の花見小路には多くの観光客がやってきて、京都らしい町並みを楽しみながら写真を撮っている。合掌造りで有名な世界遺産白川郷に大型バスできた多くの観光客がその景観を楽しみながら散策して思い思いに写真に収めてはSNSで拡散してしる。しかし、これらの観光行動は地域に全く経済効果を生まない。つまり、受益者が誰もいないのである。その地域に、絶景などの自然景観、歴史的な文化財があってもそれ自体が経済効果を生んでいるわけではない。


つまり、観光資源があるだけでは経済効果を生まず、観光インフラを加えて付加価値を与えて観光商品になって初めてカネが地域に落ちる。鉱物資源に例えるとわかりやすい。鉄鉱石はそのまま売れることはないが、それをコークスを加えて溶鉱炉で溶かす技術が加わることで、製鉄という製品になる。食材も同様に、そのままでは商品にならないことが多いが、料理技術によって人がお金を払う一皿となる。


観光商品=観光資源+観光インフラ(技術)


具体的な例を示そう。小笠原諸島には毎年2.3月になるとザトウクジラがやってくる。ザトウクジラは、旅行者が一目見てみたいと思う観光資源であるが、その存在だけでは経済効果を生まない。それを鑑賞するための、ボートやガイドなどのインフラが加わって初めて「ホエールウォッチング」という観光商品として成立し、経済効果を生む。

↑ SATOYAMA EXPERINCEサイクリングツアー(飛騨古川)


日本の農村には、美しい里山の風景が残る地域がある。それを活かして経済効果を生み出している事例が、飛騨古川で訪日外国人向けのサイクリングツアーを行っている「美ら地球(ちゅらぼし)」である。毎年5000名ほどのやってくる外国人のお目当ては、里山の風景、農作業をしている地元住民、通学中のこども、田んぼのアマガエルだそうだ。これらは旅行者が観光動機となる観光資源といえるが、それだけでは経済効果は生まないだろう。レンタル自転車・サイクリングルート・ガイド技術によって加工して「SATOYAMA EXPERIENCE」という観光商品になる。


地方創生の切り札として観光が期待される中で求められるのは、観光資源を観光商品化できる人材育成とその起業であろう。それが伴わなければ、いくら観光資源を発掘して、それをプロモーションし、観光客が増加しても本当の意味での地方創生は達成できない。


オーバーツーリズムと観光政策

一方で、観光資源は、観光産業や観光客のためのものだけではなく地域住民のものでもあるタダの公共材であることが多い。観光商品化の上では「原価ゼロ」である。従って、フリーライドや過剰利用が起きやすい。こうした過剰利用は「コモンズの悲劇」と呼ばれる。

近年、話題となっているオーバーツーリズムとは、過剰の利活用によって観光資源の質的劣化であると言える。観光経済学では、観光におけるコモンズの悲劇を「市場の失敗」として外部不経済効果として説明している。


従って、観光客が多すぎる問題に直面した地域では、観光客や観光事業者に自制を促すことはあまり効果がない。それには2つの解決策が考えられる。ひとつは、観光による受益者を増やすこと。観光客が多すぎることには反対するのは、受益と負担の関係において、負担の方が多いからである。例えば、観光客向けの飲食店やお土産店が一軒もない島に大型クルーズ船が寄稿する場合に、港湾整備・トイレ設備などに設備投資の負担よりも観光消費額が見込まれなければ、経済効果はないと言える。クルーズを受け入れるなら、観光資源ではなく観光商品を提供できる体制ができて初めて受け入れるべきであろう。

↑ グランドキャニオン国立公園入園ゲート


もう1つは、観光税・入域料の導入。観光資源は、商業的にはタダのため過剰利用やフリーライドなどの「コモンズの悲劇」を起こしやすいことは先の述べた。観光資源は公共材であるという認識に立って、その受益者負担に基づいて、観光税を広く徴収するという考えである。日本の国立公園や観光地では、入域は無料の場合が多いが、海外は有料の場合が多い。例えば、アメリカのグランドキャニオン国立公園は、車で$35、バイク$30、徒歩$20の入園料を徴収しており、国立公園の保全に活用されている。世界遺産アンコールワット遺跡は入園に際して1日券$37、3日券$62、7日券$72として、保全や修復に活用されている。


観光は経済活性化の切り札で期待されているが、その成果を見極めるリテラシーが求められる局面に突入したと言える。観光は両刃の剣。オーバーツーリズムに直面する地域においては、民間の自由競争だけに委ねるのではなく、政府の役割としてマクロ経済学的観光政策が必要になっている。その意味では、観光税や宿泊税はプロモーションや観光資源の利活用だけを用途とせず、観光資源の保全にも使うべきだと言えるだろう。

(以上)

鮫島卓研究室 SAMETAKU-LAB

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