今、私の最大の関心は「ツーリズムがイノベーションを創出するメカニズム」です。
意外に思うかもしれませんが、世の中にある様々な新しい事業、新しい商品やサービス、新しいビジネスモデルの誕生にツーリズムが大きく関わっていることが明らかになってきています。
セブンイレブンのチェーンストアオペレーション、クロネコヤマトの宅急便、ニトリ、スターバックス、ドトール、JINS PC、HISの格安航空券など創業者や事業責任者が海外旅行先での原体験が新しいビジネスを生み出すことに一役買っているのです。こうした事例は他にもたくさんあります。
新しいことがツーリズムによって起きる事例は、ビジネスだけではなく、千利休が興した茶道など文化も同様です。その話をすると「伝統文化なのにそんなはずはない」と言います。しかし、千利休はカトリックのミサを模倣して、ただの飲み物であったお茶を儀式化してその格式化を図ったと言われています。室町時代の国際都市であった堺生まれ育った利休が、キリスト教の宣教師から影響を受けたであろうこと、また利休の弟子たちにキリシタンがいたことからも、茶道の「濃茶」の儀礼がミサの「聖体拝領」から模倣したとする説が有力であることを一翁宗守を祖とする武者小路千家の14代家元である千宗守さんは述べています。
もちろん日本が島国で異民族の侵攻を受けにくかったことは、文化の独自性を進化させたという意味では大きな役割を果たしていると考えます。しかし、このように日本の独自性の象徴とされる伝統文化も、その誕生のプロセスに焦点を当てると異文化の交流によって起こっていることは非常に興味深いと考えています。
観光学では、異なる文化の交流によって生まれる新しい文化を「交流文化」としてツーリズムが社会にもたらす効用として表現しています。「交流文化」の発想を、ビジネスに置き換えて考えてみたときに、ツーリズムがイノベーション創発に影響しているのではないかと考えるようになりました。
もちろん、旅行をすれば必ずイノベーションが起こるのかと言えば、そうではありません。ただ石を積み上げても城壁にはならないのと同じように、それが城壁として機能するには必ず何らかのメカニズムやロジックが機能しているのです。
一般的にイノベーションとは、スティーブ・ジョブス、ビル・ゲイツなど特定の天才によって生まれるものとされています。しかし、イノベーション創出のメカニズムが明らかになれば、より多くの人がそれを実現できるようになる可能性が高まります。
私の研究成果については、別の機会に譲りますが、多くの事例の共通点からイノベーションが起こる与件やステップが徐々に明らかになっています。
ツーリズムが単なる「喜びのための観光」はなく、人間や社会に有益なコトであることを様々な観点から提起していくのが私たち観光学者の使命なのです。
(以上)
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